「古代・現代を問わず、勲章なしでやっていけた共和国があるというなら教えてもらいたい。諸君はこれを玩具だと言うかもしれないが、さて人間を動かすのはそうした玩具なのだ」
市民の平等という原則への攻撃と見た者もいたが、第一統領ナポレオン・ボナパルトは国務院でこの制度をこう正当化していた
みなさんは勲章に対してどんなイメージを持っていますか?
ありがたい賞、文化勲章、黄綬褒章、偉い人がもらえる賞など肯定的な見方の一方で、「国からもらう勲章なんて…」と、少し否定的な態度の人もいるかもしれません。
勲章に「国」のイメージが付きまとうのも無理はありません。
勲章は国家や元首の存在なしには成り立たないものです。
お山の大将が配下の者に褒美を出す。勲章とは本来そういう性質を持つものです。
そうはいっても、実際に勲章・褒章のメダルをもらえるとなれと、ほとんどの人は喜ぶはず。それは否定的な人でさえも…です。
放蕩息子が○○勲章をもらえばその親は手のひらを返して、息子を誇りに思うなどと口にすることでしょう。
勲章には人を喜ばせるだけの力があるということです。勲章の権威が薄れつつある現代でもなおその力は失われていません。
勲章の力を支える2本の柱は“制度”と“品質”です。勲章が勲章たるゆえんを定める制度があり、さらには最高のデザインと匠の技でつくる高い品質があるからこその“力”なのです。
ここでは3回にわけて、勲章にスポットライトを当てていきます。
その1回目となる今回は、日本の勲章制度の元となった、フランス・レジョンドヌール勲章の制度を見ていきましょう。
レジオン・ドヌールの制度は意外とシンプル?
レジオン・ドヌール勲章は今年、北野武氏がフランス政府から授与されたことで日本でも話題になりましたね。
正直なところ、それっていったい何?どれだけすごいの?と思った人は少なくないでしょう。
レジョンドヌールはフランンスの最高勲章。
1802年にナポレオンが作ってから現在まで長い歴史を持つ権威あるフランス最高の勲章です。
国の政治が変わっても勲章という制度が廃止されることなく、ここまで長く続いているのは驚くべきことだと思いませんか?
勲章に限らず、いわゆる“褒美”の価値を保ち続けるのは簡単ではありません。
レジョンドヌールがそれを成し得ている秘訣は、制度にあります。レジョンドヌールに関する法律はいくつかありますが、基本的なところではナポレオンが定めたものと変わっていません。
それはいたってシンプルで、「国家への奉仕によって与えられること」と「定員が決められていること」です。
国家が国民に与えるのがレジョンドヌールの基本形なので、その国家に属している人でなければもらえないということになります。ここで1つ疑問がわいてきますね。北野さんはどうしてもらえたのでしょうか?
1804年に特例昇級という新たな規定が付け加えられたことにより、外国人にも勲章を与えることができるようになったのです。しかしフランス人と外国人に与える勲章の中身は全く同じというわけではありません。
細かすぎるので詳しくはふれませんが、興味がある人は調べてみると面白いですよ。
また、レジョンドヌールは国家に貢献した人でなければ与えられません。国家に貢献しているというなら、ほとんどの人が当てはまるように思います。一般庶民の中にも国家のために働いている人がたくさんいるじゃないかと。
ここでいう貢献は、自己犠牲を含みます。自分の利益をなげうって国に尽くす人でなければその資格はないとみなされます。
レジョンドヌールの定員数は、法律に規定されていて、それを守らないことは許されません。厳格なまでに定員数を守り続ける理由は、インフレ化を防ぐためです。
レジョンドヌールが街全体に配られるとしたら、ありがたみは薄れますよね。めったなことではもらえないモノだからこそ、褒美には価値が生まれるのです。
勲章を見たことがありますか?
勲章とメダルはデザイン・形状が少し違います。メダルは基本的には丸いものが圧倒的に多いですが、勲章はレジオンドヌールのように先端がとがっていたり、月桂樹がついていたり、よりバリエーション豊かなデザインで装飾も豪華です。勲章バッジもあります。勲章のデザインについては後ほどのコラムで紹介したいとおもいます。
現代のレジョンドヌール?
レジョンドヌールに代表される勲章制度は、現代に生きる私たちには馴染みの薄いものと思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。勲章という名こそついていないものの、私たちのまわりにはそれに似た制度が存在しています。
例えば、企業の表彰制度です。最近では、社員を表彰したり、メダルを与えたりするシステムをとりいれる会社が増えています。そこでは、会社が国家、社員が国民に当たり、会社に貢献した人物に褒美を与えるという図式が成り立っています。
表彰制度のメリットは、社員(国民)のモチベーションアップにつながることです。金一封やあまりほしくない景品をもらうよりも勲章・メダルが授与されることは企業で戦うビジネスパーソンの誇りになりますし、評価されたんだということを実感できます。
所属する社会から認められ、高い評価を受けた人は充実感や幸福を感じると同時にさらなる自己犠牲を惜しみません。ある意味、残酷とも思われる制度は、双方にとって“ラッキー”なシステムなのです。
レジョンドヌールやそれに似た多くの制度は、人の心理をうまくついた人心掌握術という側面を持っています。それにいちはやく気づき、制度として確立させることで統治に役立てたのはナポレオンでした。彼の非凡な才能には驚かされますね。
さて一方、日本で勲章制度が整ったのは明治時代に入ってからのことでした。次回はレジョンドヌールを参考に日本の勲章を作り上げるところのお話です。“力”を支える柱のもう1つ、品質を巡って、政府と薩摩藩が攻防を繰り広げます。
2回目もお楽しみに!
「勲章の起源に迫る。薩摩藩VS幕府の熾烈な争いとは?」に続く
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